「さらし首と決意」   さつきサマ
珊瑚 「じゃ、犬夜叉。あたしたち、四魂のカケラの情報集めてくるから。あんた、留守番してる?」
犬夜叉「ばっきゃろぅ。俺も行くに決まってんだろ。」
弥勒 「はぁ〜〜おまえは気を利かすってものを知らないのか。」
珊瑚 「なによそれ。」
かごめは今、「てすと」とやらで実家に帰っている。
そこで一行は楓の村で旅の疲れをとっているのだった。
七宝 「オラ、ここで雲母と遊んでいるぞ。」
珊瑚 「そう。じゃ、行ってくるね。」
七宝 「おぅ!気をつけてな!」
珊瑚 「ありがと。」
3人は、南に向かって歩いていった。

珊瑚 「・・・結構歩いたね。」
村を出て3時間ほど。
未だ何一つ手がかりは掴んでいない。
弥勒 「はぁ。ちょっと休みますか。村も見えてきたことですし。」
犬夜叉「なに言ってんだ。さっき村を出たばっかじゃねーか。」
珊瑚 「あんたの【さっき】と、あたしらの【さっき】じゃ、えらくちがうようだね。」
珊瑚がうざそうに言う。
弥勒 「ん?なんでしょう。人だかりが・・・」
珊瑚 「ホントだ。なんだろ。芸人でもいるのかな?」
弥勒 「行ってみましょう。」
犬夜叉「んなもん見て何になるんだよ・・・」
ぶつくさ言いながらも、ちゃんと二人の後を付いてゆく犬夜叉。

3人は人込みを掻き分け、人だかりの真ん中にたどり着いた。
?!
そこには、7人の首が、台の上に並んでいた。
珊瑚 「ゃ・・・・」
珊瑚は目をそらした。
犬夜叉「なんだよこれ・・」
弥勒 「ひどい・・・」
弥勒は、珊瑚が怯えていることに気が付いた。
弥勒 「おなごが見るものではありませんな。犬夜叉、珊瑚を頼みます。」
犬夜叉「おぅ。行くぞ、珊瑚。」
珊瑚は小さくうなずいた。

犬夜叉は珊瑚を川の傍に連れて行き、座らせた。
珊瑚は怯えたままだ。
珊瑚 「・・・・・・・・」
顔は青白く、相当なショックを受けているようだった。
犬夜叉「・・・・・・・」
犬夜叉はそぅっと立ち上がり、竹筒に水を入れた。
犬夜叉「これ、飲め。ちょっとは落ち着くだろ。」
珊瑚は無言で受け取り、一口で飲み干した。
珊瑚 「ありがと・・・・・なんか落ち着いたよ・・・」
肌の青白さもましになっている。
ザッ
犬夜叉「弥勒・・・」
弥勒 「戻りました。」
弥勒の表情は暗かった。
犬夜叉「なにか分かったか?」
弥勒 「・・・あれは、人間の仕業です・・・」
珊瑚 「?!・・・うそ・・・」
弥勒 「妖気が感じられませんでした。野盗かなにかでしょう・・」
珊瑚 「・・・・・許せない・・・」
珊瑚は拳を堅く握った。
弥勒 「私の予想では、犯人は、他の場所でも同じようなことをやると思います。
    殺された方たちは皆、老若男女さまざまです。
     人を殺して喜んでいるヤツの仕業でしょう。」
珊瑚 「やめさせなきゃ・・」
弥勒 「ですな。私は行きますが、犬夜叉、おまえ、珊瑚と・・・」
珊瑚 「あたし、行くよ。」
珊瑚は立ち上がった。
犬夜叉「いいのか?」
珊瑚 「あんなことして喜んでるヤツ、ほっとけない。殺された人たちのためにも・・・」
珊瑚は目をつぶった。
―殺された人たちの中に、琥珀と同じぐらいの男の子がいた・・・
 人を殺して何が楽しい?悪いことをしている妖怪を倒すのだって、楽しいものじゃない・・
 なのに、なぜ人間が人間を殺す・・・・やめさせなくちゃ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・―
弥勒 「そうか・・・では、行きましょう。できるだけ被害を抑えなくては・・」
犬夜叉「あぁ。」

3人は再び歩き出した。
珊瑚の表情はまた曇った。
顔色も悪くなった。
犬夜叉と弥勒も、心配し始めた。
弥勒 「珊瑚、辛いのだな・・・」
弥勒は珊瑚の目を見た。
珊瑚 「・・・・・・・」
弥勒 「犬夜叉と一緒に、待っているか?」
珊瑚 「いやだ・・・一緒に行く・・・」
弥勒 「珊瑚・・・」
珊瑚 「あたしは今まで、大勢の人の死体を見てきた。皆、足がなくなったり、手がなくなったり・・」
弥勒 「・・・・・・」
珊瑚は視線を落とした。
珊瑚 「けど、首だけ見たのは初めてだったから、ちょっと驚いただけだよ。」
犬夜叉「・・・・・」
弥勒は珊瑚を抱きしめた。
犬夜叉「な゛っ・・・///」
なぜか犬夜叉が赤くなる。
弥勒 「珊瑚・・辛いときは我慢するんじゃない・・・」
珊瑚 「・・・・・うっうっうっ・・・・・」
珊瑚は泣いた。
弥勒に強く抱きしめられながら。
珊瑚 「こわ・・・かった・・・うっうっ・・・」
弥勒 「それが人間です・・・」
珊瑚 「・・・・ご・・めん・・おち・・つぃた・・」
弥勒 「では・・行きましょうか・・・もう大丈夫ですね?」
珊瑚 「ぅん・・・・・・」
弥勒 「ところで犬夜叉、なにを見ている。」
犬夜叉「ぇ゛。お、おまえらが目の前で――」
珊瑚 「や、やだ!犬夜叉、いたの?!」
犬夜叉「な゛っ・・・わ、忘れてたのか!」
珊瑚 「くすっ・・・・ごめ・・・くくく・・・・・・・・・・・・なんか、元気でたよ。ありがとね。」
珊瑚はまっすぐ前を見た。
珊瑚 「行こう。絶対やめさせる。」
犬夜叉「おぅ。」
弥勒 「はい。」

3人は歩き出した。
珊瑚 (もう・・・逃げない・・)
決意を新たにした珊瑚の顔は、キラキラ輝いているように見えた。

次の村。
女  「キャーーっっく、首!」
どこからか女の声が聞こえた。
犬夜叉「ちっ・・・遅かったか!」
弥勒 「行きましょう!」
珊瑚 「・・・うん・・・」
―逃げない―
と堅く誓っても、やはり見たいものではない。
珊瑚の足は自然と重くなっていく。
犬夜叉「?・・珊瑚・・弥勒、おまえ、一人で行け。」
弥勒 「・・・・・・・・・・・・はい・・」
犬夜叉「珊瑚、おまえは見なくていい。」
珊瑚 「ぁ・・・ゴメン・・あたし、弱くて・・・・」
犬夜叉「弱くなんかねーよ。あれを見て、怖くねぇほうがおかしいぜ。
     俺だって・・見たくねぇよ。」
珊瑚 「・・・・・・・・?!犬夜叉、あれ!」
珊瑚が指差した先には、森に入っていく3名の野盗が。
犬夜叉「あいつらの仕業か・・・!行くぞ!珊瑚!」
珊瑚 「あぁ!」
2人は森に向かって走った。

犬夜叉「待てコラ!!」
犬夜叉は3人の前に飛び降り、行く手をふさいだ。
野1 「な、なんだテメェは!」
犬夜叉「おまえらだな?人を殺しまわっていたヤツは。死体の匂いがぷんぷんしやがる。」
珊瑚 「なんのためにあんなことしたんだ!」
野2 「なんのためだと?ふ・・楽しいからに決まってるじゃねーか。」
珊瑚 「なんだと?!」
野3 「俺たちの両親も、あぁやって殺されたんだぜ。俺たちだけあんな苦しみを感じるのはおかしいじゃねぇか。
    あの苦しみを、他のやつらにも分けてやるんだよ。」
珊瑚 「許さない!」
珊瑚は男たちに殴りかかろうとした。
が、犬夜叉が引き止める。
犬夜叉「やめろ、珊瑚。おまえがこいつらを殺したって、何にもならねぇ。」
珊瑚 「でも・・っでも・・・」
珊瑚は犬夜叉に抱きついた。
珊瑚 「違う・・・違う・・・あんたたち、間違ってるよ・・・」
犬夜叉「・・・・・・・・・・・・・・」
珊瑚は目を野盗に向けた。
珊瑚 「あたしは・・・妖怪に家族を、仲間を、皆殺されたんだ・・」
男1 「・・・・・・」
珊瑚 「けど、この苦しみを他の人に味わってもらおう、なんて、考えたことない!
    もっと苦しんでる人だって、いると思う!」
男2 「・・・・・・」
珊瑚 「なんで?!なんで、そんな苦しみを味わう人の数を減らそうって思わないの?!なんで・・・」
珊瑚は地面に膝をついた。
本当に悲しかった。
家族を殺されたのは己とて同じ。
だが、なぜこんなにも考え方が違うのだろうか・・・?
犬夜叉「おまえら、これからもまだやるつもりなら、俺はおまえらと戦うぜ。」
男3 「・・・・・・もう・・・やらねぇよ・・・なぁ、兄貴。」
男1 「なんか、もう疲れた・・・」
男2 「あぁ・・・・普通に・・暮らしてぇ・・・」
男1 「すまなかったな、ねぇちゃん。俺たちは、間違っていたらしい・・」
珊瑚 「・・・・・・・・・・」
男1 「あばよ。・・・さぁ、弟分たち、これからは静かに暮らそうぜ。」
男2 「そうだな・・」
珊瑚 「・・・・・・・・・・」
犬夜叉「・・・もう・・大丈夫だろ・・」
珊瑚 「ぅん・・・・・」
弥勒 「珊瑚!犬夜叉!」
珊瑚 「法師様・・・」
弥勒は珊瑚が泣いていることに気が付いた。
弥勒 「どうした・・・会ったのか?野盗に・・」
コク・・・
珊瑚は小さくうなずいた。
珊瑚 「もう大丈夫だよ、きっと。あの人たちも・・あたしも、ね。」
弥勒 「そうか・・・おまえが言うなら、信じよう・・」
珊瑚 「帰ろう・・」
弥勒 「はい。」
犬夜叉「おぅ。」

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