「朔の夜、半妖の決意」   テンサマ
「・・・・・・また、来ちまったか・・・・・」

犬夜叉は、独りぼそっとつぶやいた。
今宵は朔の夜、月の出ない新月。
そして、半妖である犬夜叉が妖力を失い、人間の姿になってしまう日。

「・・・・ねぇ、犬夜叉、何やってんの?」
独り様子のおかしい、犬夜叉のもとにやって来て、かごめがたずねた。

「べつに・・・・何もしてねぇよ・・・・」
犬夜叉は、沈痛なおももちで答えた。

「・・・・・今夜は新月・・・・・・そのことを気にしているんでしょ?」

「(ピクッ)・・・・別に、気になんかしてねぇよ!」
犬夜叉は、かごめの言葉に反応しつつも強気で答えた。
「うそばっか、私には分かるんだからね!!
 いいじゃないの、人の姿だからってそんなに落ち込まないでも・・・
 犬夜叉は充分、強いよ。」
かごめはなぐさめるように犬夜叉に言った。

「けっ!!人間の姿なんぞでなにが強いんだ!
 俺は妖力がなけりゃなにもできないんだ!!
 (・・・・・大切な奴さえも、守れないかもしれない・・・・)」

「・・・・・そんな事はないよ、犬夜叉。犬夜叉の強さは、妖力だけじゃない。
(・・・・犬夜叉は心も強いよ・・・・)」

かごめは、真剣な顔で犬夜叉に話し続ける。

「・・・・・・犬夜叉は、そんなに妖怪になりたい?」

「・・・・・・ああ!なるさ、本物の妖怪に・・・・必ず・・・・」

犬夜叉は、自分に言い聞かせるようにして、話した。

「・・・・・・妖怪ってそんなにいいの?確かに、人間の姿になって、妖力を失うことはない。
 でも、完全な妖怪になれば、心を失うかもしれないって弥勒さまが言ってたじゃない・・・」

「・・・・・・・・・・。」

犬夜叉は、無言のまま、かごめの話を聞いていた。

「私は、半妖のままでもいいと思うけどな・・・・。
 いや、私は犬夜叉に半妖のままでいてほしい。」

かごめは、犬夜叉のほうに視線を向けながら言った。

「・・・・・・・・・かごめ・・」

長い沈黙を破り、ようやく犬夜叉が口を開いた。

「俺は、お前に会ってから、人を信じることができるようになった。
 お前のおかげで、ここまでこれた。七宝、弥勒、珊瑚、たくさんの仲間もできた。
 お前に会えて、良かったと思ってる。
 だが、奈落を・・・あいつだけは必ず倒す。
 どんなことがあっても必ず・・・・。
 戦いも、これからどんどん激しくなっていくだろう。
 だけど、俺は今のままで、お前やあいつらを守れるか、自信がねぇんだ。
 普段は俺が守ると思っていても、この日が、朔の日がくるたびに不安になるんだ・・・
 五十年前、桔梗を守れなかったように・・・・」
犬夜叉は、本当に苦しそうな顔で、かごめに話した。

「(・・・・犬夜叉・・・・。あんたが、そんなこと思ってたなんて・・・・・)」

すると、かごめは犬夜叉の手を優しくにぎった。

「犬夜叉・・・・。・・・・・私は、たとえ犬夜叉が本物の妖怪になって、守ってもらった
 としても全然嬉しくないよ・・・・。・・・今のままの犬夜叉が本物の犬夜叉なんだから・・
 みんなもきっとそう思ってるよ。弥勒さまも珊瑚ちゃんも七宝ちゃんも、絶対そう思ってる。
 私たちは、いつでも犬夜叉のことを信じてる。だから、犬夜叉も私たちの力を信じて・・・。
 今までだって、色々あったけどみんな一緒だから頑張ってこられた。一人じゃないから乗り
 越えられた。これからも、みんな一緒なら、乗り越えられる。私は・・・・
 ううん、私たちは今のままの犬夜叉が大好きだから。」
 かごめは、犬夜叉に微笑みかけながら話した。

「・・・・・・・かごめ、ありがとな・・・・・」
犬夜叉は、少し照れながら、それでもしっかりと礼を言った。
「なんか・・・あんまり素直すぎて犬夜叉じゃないみたい・・・・」
かごめが、ぼそっと独り言のようにつぶやいた。
つもりだったが、犬夜叉の耳にはしっかり聞こえていた。

「・・・・・かごめ!・・・・誰が俺じゃないみてぇだっていうんだよーーーーーー!!」
さっきまでの、沈痛な空気は何処へやら・・・・
犬夜叉は思いっきり怒鳴っていた。

「なによ!!そんなに怒鳴ることないじゃない!!
 だって、本当のことでしょーーーー!!!」
 かごめも負けじと怒鳴った。

「なんだとーーーーーーーーー!!!」
「もーーーーーう!!さっきまで、泣きそうな顔してたくせにーーーーーーー!!」
「だれが泣きそうな顔なんかしたかよ、バーーーーーーーカ!!!」
「誰が、バーーーカよ!!!私は、犬夜叉よりバカじゃないわ!!」
「何をーーーーーーーーーーーーー!!」
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しばらく、言い争いが続いたのち・・・・

「もうーーーーー!!うるさーーーーーーーーーーい!!
 犬夜叉、おすわりーーーーーーーーーーー!!!」
「ふぎゃーーーーーーーーー!!」
終わりは、いつもどうり犬夜叉の負けのようである。

だが、かごめに言われた言葉で犬夜叉の心には、ある決心がついた。

「(・・・・・・・・俺は、半妖だ・・・・。確かに、本物の妖怪よりは、弱いかもしれない・・
 だけど、今のままで、どんな妖怪よりも強くなってみせる。
 そして、必ず奈落を倒し、かごめ、お前のことも守ってみせる。
 俺には、今、自分にあるべき居場所がある・・・・。
 自分のことを信じてくれる仲間がいる。
 俺は、その仲間のためにも、自分のためにも、強く生きてみせる・・・・」

月の出ぬ、新月の夜、星たちが見守る中、一人の半妖の少年とその仲間たちの旅は
まだまだ続く。

END

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