「大きな仲間 小さな自分〜魂よ己の体へ〜」   さつきサマ
ここはとある山の頂上。
今夜はここで野宿することになりそうだ。
弥勒は薪を拾いに、七宝はドングリを拾いに、雲母と珊瑚は魚を捕りに出かけた。

珊瑚 「て言っても、捕るのは雲母なんだよね・・・ゴメンね雲母。
    あたしは雲母みたいに上手に捕れないんだ。」
雲母 「シャァ!」
雲母は大きく変化して、片っ端から魚を岸にあげる。
珊瑚はそれを拾う役目だった。
ピクッ
雲母の鼻が動く。
珊瑚 「雲母、どうかした?」
雲母 「シャァ〜ッ」
雲母が吠える。
 ダーーンッ
ものすごい地響き。
目をつぶってしまった珊瑚が恐る恐る目を開けると、そこには大きな豚妖怪が。
珊瑚 「なっ・・・」
雲母 「シャァッ!」
雲母が珊瑚の前に立つ。
豚  「久しぶりだな退治屋・・・」
珊瑚 「あたしはあんたなんか知らないね。」
珊瑚も身構える。
豚  「な゛っ・・・てめぇ、忘れたとは言わせねぇぞ。」
冷静な珊瑚。
珊瑚 「忘れた。」
豚の顔が赤くなる。
豚  「こ、この野郎・・・・・
    わしはおまえが退治した妖怪の子供の子供の子供だ!」
珊瑚 「知るわけないだろ。」
冷静な珊瑚。
豚  「ま、まぁいい。おまえは今からひとりになるのだから。
    俺のじいさんが感じた寂しさを味わえ!!」
豚は珊瑚に向けてヘビのような紐を放った。
雲母 「シャ!」
雲母が対抗するが、紐に絡まれ動けなくなってしまった。
珊瑚 「雲母!!」
珊瑚は駆け寄る。
が、珊瑚も紐に捕らえられてしまった。
珊瑚 「くっ・・・」
珊瑚は豚のほうに連れてこられた。
そして、なにやら酒のようなものをぶっかけられた。
珊瑚 「なっ・・・酒・・・」
豚  「フ・・・準備完了だな・・・」
豚は腰についている壺をあけた。
すると、中から何か光ったものが出てきた。
それが、珊瑚の中に入っていく。
珊瑚 「ちくしょ・・・・・」

弥勒 「珊瑚、遅いですね。」
かごめ「なにかあったのかしら。」
ザンッ
犬夜叉「かごめ、危ねぇ!!」
なにか大きなものがたくさんの木を切り倒した。
犬夜叉「なんだ?!」
弥勒 「珊瑚・・・」
その大きなものは飛来骨だった。
投げたのは珊瑚。
その後ろには豚妖怪。
どうやら珊瑚は豚に操られているようだ。
犬夜叉「おぃ豚野郎!!珊瑚になにをした!」
豚  「フ・・・なに、こいつの魂を半分抜き、他の魂を入れてやっただけよ・・・」
弥勒 「?!他の魂?!」
豚  「驚いたか。今この女は自分の意思では動けない。だが最後まで意識はある。
    自分が仲間を殺す姿を見るんだゼ。まさに生き地獄ってヤツだ。」
弥勒 「なに?!」
ビュッ
また飛来骨が飛んできた。
弥勒 「ゎっ」
間一髪でかわす。
犬夜叉にも投げる。
犬夜叉「ちっ・・・」
攻撃するわけにもいかず、一行は悪戦苦闘。
操られた珊瑚は一向に攻撃をやめない。
普段から鍛え抜かれているだけあって、かわすのにも一苦労。
珊瑚は飛来骨で犬夜叉を殴りにかかった。
ゴッ
犬夜叉「珊瑚!目ぇ覚ませ!」
どうにか受け止めるが、さすがは珊瑚。
すばやく脇差を抜き、切りかかる。
胸を切られた犬夜叉はひざまずく。
犬夜叉「くっ・・・」
弥勒 「やめろ珊瑚!」
再び犬夜叉に切りかかろうとする珊瑚を弥勒が止めに入る。

珊瑚の魂が目覚めた。
珊瑚 (ん・・・・ここ・・どこ・・・?
    ?!ちょっと、あれはあたし!?なにしてるのさ!やめろ!)
珊瑚は自分が仲間を傷つけていることに気づく。
だが自分の体なのに自分で動かせない。
珊瑚 (やめろ!やめろってば!)
珊瑚はいま、真っ暗な闇の中にいる。
正確に言えば、珊瑚の魂なのだが。
珊瑚の魂は、豚がいれた他の魂によって、堅い檻の中に入れられたのだった。
珊瑚はその檻を懸命に叩く。
が、ビクともしない。
珊瑚 (ちくしょう・・・)
珊瑚は自分が仲間を傷つけるところを見るのが辛く、両手で顔を覆ってしまった。

弥勒 「珊瑚!私がわからないのですか?!」
珊瑚 「・・・・・・・・・・・・・・・・」

珊瑚 (法師様!!逃げて!早く逃げてよ!)
珊瑚は叫ぶが聞こえるはずもない。

弥勒 「珊瑚!」
ゴッ
再び飛来骨が投げられる。
弥勒 「ちっ・・・」
弥勒が避ける。
と、避けられた飛来骨の向かった先にはかごめと七宝。
かごめ「きゃーっ!」
七宝 「わわわわわわ・・・」

珊瑚 (かごめちゃん!七宝!逃げて!みんな、あたしのそばから離れて!)

犬夜叉「かごめ!」
犬夜叉が間一髪で救う。

 ダンッ
弥勒が珊瑚を押し倒した。
弥勒 「珊瑚・・目を覚ましてくれ!」
シュッ
珊瑚の隠し武器が弥勒の頬を襲う。
弥勒 「くそ・・・」
弥勒は珊瑚に追い詰められてしまった。
珊瑚の手には脇差が握られている。

珊瑚 (いや、法師様、逃げて!いや・・・)

珊瑚が脇差を振り上げる。
振り下ろす―――
弥勒 「珊・・・瑚・・・?」
いままで無表情だった珊瑚の目から涙がこぼれた。
体が震えている。
珊瑚 「逃・・・げて・・・あたしから・・・離れて・・・」
かごめ「戻った・・・?」
いままで笑いながら見ていた豚が叫んだ。
豚  「どうした女ぁ!さっさと殺らんか!」
珊瑚の震えがおさまった。
表情も無になった。
だが涙は止まらない。
珊瑚は脇差を振り下ろす!

珊瑚 (やめてぇ!!!

珊瑚の動きが止まった。
なにかが珊瑚の体から出てきた。
珊瑚が前のめりに倒れる。
弥勒 「珊瑚!」
弥勒が受け止める。
豚  「なにぃ?!わしの作った魂が負けただと?!」
弥勒 「いまだ犬夜叉!」
犬夜叉「任せろ!!風の傷!!!!」
豚  「グワァァァ〜〜〜」  
豚は粉となって消えた。
あとには壺が残った。

珊瑚は目を覚まさない。
魂の半分が足りないからだろう。
弥勒は珊瑚を寝かせ、壺を手にした。
すると、珊瑚の魂が出てきた。
魂は、すぅっと弥勒の手に納まった。
弥勒はそれを大事に抱え、珊瑚の横に座る。
弥勒 「珊瑚・・・目を覚ましてくれ・・・」
魂は弥勒の手を離れ、珊瑚の中に入った。
珊瑚 「法・・・師・・様・・・」
珊瑚が目を覚ました。
珊瑚はゆっくりと起き上がった。
そして、切られた弥勒の頬に手を添えた。
珊瑚 「ゴメン・・・あたしもうここにいられない・・・」
珊瑚の瞳から大粒の涙がこぼれた。
弥勒は珊瑚の手をやさしく包んだ。
弥勒 「おまえは操られていた。気にするな。」
珊瑚 「でも!・・・でも、あの中に、ちゃんとあたしは居たんだ。
    自分の体なのに、止められなかった・・・真っ暗なところで、檻に入れられて・・・」
弥勒 「珊瑚。だれもおまえを恨んだりしない。おまえの居場所はここだ。」
珊瑚 「だけどあたし、かごめちゃんにまで怪我させて・・・」
かごめは何投目かの飛来骨をかわす際に腕を木ですりむいていた。
かごめ「あたしなら全然平気よ。気にしないで。」
珊瑚 「でも・・・・・」
犬夜叉「あーもーるせーな。おまえの居場所はここにしかないんだろ?
     じゃあ、ここに居るしかねぇじゃねぇか。」
珊瑚 「・・・・・////」
弥勒 「・・・私は、おまえに一緒に居て欲しい。」
珊瑚 「ぇ・・・///」
弥勒 「おまえは私と、一緒に歩きたくないか?」
珊瑚 「・・・歩きたいっ!みんなと一緒に歩きたい!」
珊瑚は泣き崩れた。
そんな珊瑚を弥勒はずっと、やさしく抱いてやった。
あとがき
久しぶりに長編小説書きたいと思います。
あの豚、私の想像ではジブリの「紅の豚」の豚なんですよ。
まだまだ続きますよ→

▲このページの上へ



「大きな仲間 小さな自分〜忘れられない人〜」   さつきサマ
珊瑚 「ホントに、ホントにゴメン、みんな・・・」
珊瑚は先日のことをまだ気にしているらしい。
弥勒 「いつまで気にしている。もう大丈夫ですよ。」
珊瑚 「ありがとう・・・けど、傷の手当てはあたしにやらせてね。」
弥勒 「はいはい。」
弥勒は頬に5cmほどだが深い切り傷を、犬夜叉は胸に相当大きな傷を負っている。
珊瑚は弥勒の頬に、薬草を塗り、かごめの国のバンソーコーを貼り付けた。
犬夜叉の胸にも薬草を塗り、包帯を巻いた。
犬夜叉「俺はいいっつってんだろ?!///」
珊瑚 「動かないで・・・・・はい、終わり。ゴメンね。結構大きい・・・」
犬夜叉「けっ。これぐらいでいちいち騒ぐな。」
珊瑚 「・・・・・・・・あたし、水汲んでくるね。」
珊瑚は走っていった。
かごめ「珊瑚ちゃん、相当気にしてるわね。」
七宝 「珊瑚は悪くないのにのぉ。」
弥勒 「まぁ、しばらくは一人にしておいてあげましょう。」
かごめ「そうね。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
珊瑚 「はぁ・・・・・・」
珊瑚は竹筒に水をたっぷり入れた。
そして、それを横に置き、膝を抱えた。
珊瑚 (みんな、やさしすぎるよ・・・なんか文句言われたほうがやりやすいな・・・)

犬夜叉「珊瑚のヤツ、まだ戻ってこないのか?」
弥勒 「はぁ・・・少し遅すぎますね。」
犬夜叉「少しじゃねーだろ。もう昼飯だぞ。」
弥勒 「では、私が呼びに行ってきます。」
犬夜叉「おぅ。」
そのとき。
ゴォ!!
なにかが一行の前に現れた。
犬夜叉「なんだ?!」
空心 「我が名は空心【くうしん】。おまえたち、四魂のカケラを持っているようだな。渡してもらおう。」
犬夜叉「あぁ?!だれが渡すか!」
空心は7人の仲間を連れてきていた。
空心 「ならば力ずくで奪ってみせる!」
シュッ!
空心が刀を抜く。
犬夜叉「望むところだ!」


珊瑚 (あ・・・もう帰らなきゃ・・・みんな、心配してるよね・・)
珊瑚は立ち上がり、のろのろと歩いていった。

珊瑚 「遅くなってゴメ――」
皆がいっせいに振り向いた。
空心 「鈴心【れいしん】・・・」
シュッ!
空心は珊瑚の傍に跳んだ。
珊瑚 「なっ・・・」
空心 「鈴心の・・生まれ変わりか・・」
珊瑚 「なにいっ――」
ドッ
空心は珊瑚の腹を殴った。
珊瑚 「か・・は・・・」
珊瑚は意識を失った。
弥勒 「珊瑚!!おまえ!なにをする!!」
空心 「皆のもの!引き上げるぞ!」
ゴォ!!
くるときと同じ音がしたかと思うと、空心たちは消えていた。
弥勒 「くそ!」
ドンッ
弥勒は拳で地面を殴る。
犬夜叉「あの野郎・・・」
かごめ「なにか変だわ。最初は四魂のカケラを狙ってきたんでしょ?なのになんで珊瑚ちゃんを・・・」
七宝 「鈴心・・とか呼んでおったぞ。」
弥勒 「珊瑚と、その鈴心とやらは似ているのか・・?」
犬夜叉「理由はどうあれ、行くぞ!」

珊瑚 「ん・・・・・」
珊瑚は目を覚ました。
珊瑚 「ここ・・・」
どこか宮殿のようなところだった。
珊瑚 (どうにかして逃げなきゃ・・・)
嬉しいことにつながれていないので自由に動ける。
ザッ・・
空心 「起きたのか。」
空心が入ってきた。
珊瑚は身構える。
珊瑚 「あたしに鎖一本もつけないなんて、なめられたもんだね。」
空心 「ふ・・・そんなものはいらぬ。
     おまえは我が結界から出ることはできないのだ。」
そのとき珊瑚は、己が右手に美しい飾り物がついていることに気が付いた。
珊瑚 「これ・・・・」
空心 「それがついている限り、おまえは結界から出られない。」
珊瑚はあわててはずそうとするが、はずれない。
空心 「それは、私がはずすまではずれない。」
珊瑚 「ちっ・・・」
空心 「おまえに質問がある。答えてくれるか?」
珊瑚 「内容による。」
空心 「そうか・・・では座って話そう。黒心【こくしん】。」
黒心 「はっ」
黒心と呼ばれた全身黒装束の男が珊瑚に椅子を持ってきた。
珊瑚 「・・・・」
空心 「座れ。」
珊瑚 (とりあえず、すぐには殺されないようだな・・・)

空心 「ではまず、おまえの名前は、鈴心か?」
珊瑚 「ちがう。珊瑚だよ。」
空心 「私の顔に、見覚えはないか?」
珊瑚 「ない。」
空心 「生まれ変わりではないのか・・・」
珊瑚 「あたしからも質問させて。あんただれ?」
空心 「まだ言っていなかったか。我が名は空心。」
珊瑚 「なんであたしを連れてきた?」
空心 「おまえが・・・私の女に瓜二つだから・・・」
珊瑚 「あたしに・・・似てるの・・・?」
空心 「あぁ。」
空心は過去のことを話し出した。

3年ほど前まで、空心と鈴心は一緒に暮らしていた。
空心は妖怪、鈴心は人間だった。
二人ともおたがいを心底愛していた。
だが、ある日、鈴心の父が病気であることを知った。
鈴心の家族たちは、空心のことを嫌い、鈴心との同居も反対だった。
その反対を押し切って、二人は同居していたのだった。
鈴心は空心に、父に会いに行きたいと言い出した。
だが、空心は、鈴心に行って欲しくなかった。
鈴心の家族たちはみな、生き物を殺しまわる。
生き物好きな空心は、ひとりだけ考え方のちがう鈴心を、会わせたくなかった。
けれど、考え方は違うといえども家族である。
鈴心は引き下がらなかった。
空心は、結界の中から30分しか出ることができない体だった。
そこで、必ず帰って来るという約束で、鈴心を行かせた。
だが、何日たっても鈴心は帰ってこなかった。
風の噂で、鈴心は死んだと聞いた。
30分しか外に出られない身なので、確かめに行くことができなかいまま、3年が過ぎたのだった。

珊瑚 「そう・・・なんだ・・・」
空心 「だから、珊瑚。おまえを見つけたとき、鈴心が生きていたのかと思い、とても嬉しかった。
    人違いだったとはな・・・すまない・・・」
珊瑚 「ううん・・」
    (なんかこの人、悪い人じゃないみたいな・・・)
空心 「だが、もう少しここに居てもらわねばならない。」
珊瑚 「え゛っ・・なんで?」
空心 「私は今、四魂のカケラを欲している。おまえの仲間たちが持っているのだろう。」
珊瑚 「・・なぜ・・あんたみたいな人が四魂のカケラなんかを欲しがる。」
空心 「私は、四魂のカケラを使い、大きな結界を作れるようにするのだ。
    いまこの結界の中には、何頭もの生き物たちがいる。
    その全ては、生き物を殺しまわる者から逃れてきたものばかりだ。」
珊瑚 「ぇ・・・」
空心 「だが、年々生き物たちが増えるにあたって、結界を広める必要があるのだが、
    私の今の力ではこれが精一杯なんだ。」
珊瑚 「・・・よっぽど・・生き物が好きなんだね・・」
空心 「あぁ。理由はもうひとつある。
    四魂のカケラを我が手にし、この、結界から30分以上出ていられない体を変えるのだ。
    そうすれば、鈴心のことを探しにいける。もっと、苦しんでいる生き物を救える。」
珊瑚はだんだん、空心に心を許してきた。
生き物が好きなのは珊瑚と同じ。
考え方も同じだった。
空心 「わかってくれたか。」
珊瑚 「あんたの気持ちはよく分かった。けど、四魂のカケラは渡せない。」
空心 「なぜだ。」
珊瑚 「四魂のカケラは、たった一分、一秒の魂の汚れに反応して、悪いほうに行っちゃうんだ。
    そうでなくてもいまは、カケラの汚れがひどい。
    悪い考えを起こさなくても、カケラに魂が飲み込まれてしまう。」
空心 「・・・・・・」
珊瑚 「だから、諦めて・・」
空心 「無理だ。私はもう決意してしまった。もう後戻りはしない。諦めない。
    力ずくでも奪ってみせるさ。」
珊瑚 「空心・・・・・無理だよ。みんなには勝てない。」
珊瑚は空心を睨みすえた。
空心 「さぁ、どうかな・・・おまえをおとりにする・・・あいつらはおまえの命と四魂のカケラ、どっちを選ぶか。」
珊瑚 「なっ・・・あたしを殺すきか?!」
空心 「いや・・おまえにはしばらく一緒にいてもらう。
    おまえを見ていると、鈴心を見ているようで懐かしいキモチになる・・・」
空心は目を細めた。
珊瑚 「・・・・・・・・・」
空心 「それに、地の利は確実に我らにある。私の結界は、中から攻撃は出来るが、
    外からの攻撃は跳ね返す。」
珊瑚 「ぇ・・・・」
空心 「あの結界が破れれば、私や、あの七人の家来、生き物たちが皆死んでしまう。
    破らせはしない・・・」
珊瑚 「・・・・・・・・・・・・・」

空心 「おまえの部屋に案内しよう。」
珊瑚 「あたしの・・・部屋?」
空心 「前に鈴心が使っていた部屋だ。ついてこい。」
空心は、珊瑚をバラの花に囲まれたとても美しい部屋に連れて行った。
珊瑚 「ぅゎ・・・キレイ・・・」
空心 「喜んでもらえたか?」
珊瑚 「あたしはここに住むなんて言ってないよ。」
空心 「可愛くないヤツだな。鈴心にそっくりだ。」
珊瑚 「もう!あたしはあたし、他のだれでもない!いちいち鈴心っていう人の名前出すな!」
空心 「すまん・・・そうだ。あれが鈴心だ。」
空心は壁に掛かってある絵を指差した。
そこに描かれていたのは美しい女の人。
珊瑚 「あの・・人・・?やだ、あたしなんかと全然似てないよ。もっと美人・・・」
空心 「いや、そっくりだ。なぁ、皆の衆。」
黒心 「はい。」
白心【はくしん】 「そうでございます。」
黄心【おうしん】 「珊瑚さまは、顔、お声、性格、全てが鈴心さまと瓜二つでございます。」
緑心【りょくしん】 「正直私どもも、最初にお会いしたとき、鈴心さまが戻られたと思いました。」
青心【しょうしん】 「人違いであったとは、誠に残念でございます。」
赤心【せきしん】 「ですが、珊瑚さまがこの場に来られたことにより、空心さまや私どもの
           気持ちが大分安らいだことと思います。」
紫心【しぃしん】 「御用があればなんなりとお言い付けください。」
どこからか現れた7人は、一息で言った。
珊瑚 「あ、えっと・・・」
空心 「皆、私の家来だ。いまでは一番信頼できる。」
珊瑚 「そう・・・」
空心 「庭にでよう。」
珊瑚は空心の後につき、庭に出た。
庭にはたくさんの生き物がいた。
珊瑚 「こんなに・・・」
空心 「皆ここでは、悪者に追われることもなくのんびりと暮らしている。
    この環境をもっと広めたいものだ・・・」
珊瑚 「・・・・・」
珊瑚は無言で庭を歩いた。
しばらく歩くと、
空心 「珊瑚!それ以上前に行くな!」
珊瑚 「なんで―――」
バチッ
珊瑚 「きゃっ!」
腕輪と結界が反応して珊瑚は弾き飛ばされた。
空心が支える。
空心 「行くなと言ったであろう・・・腕を怪我している・・・緑心!」
緑心 「はっ!」
緑心がすぐさま傷薬を持ってきた。
空心は優しく手当てしてくれた。
珊瑚 「・・・///(この人に、四魂のカケラなんか似合わないよ・・)」
珊瑚は思った。

弥勒 「犬夜叉!珊瑚の匂いはないのか?!」
犬夜叉「いま探してる!・・・・・ちくしょう・・少しもねぇ・・・」
かごめ「もっと遠くに行っちゃったのかしら。」
珊瑚は結界の中にいるため、犬夜叉や雲母の鼻ではわからない。
弥勒 「結界かもしれません。皆さん、下がって!」
弥勒は懐から札を出し、投げた。
バチッ
結界のなかが見えるようになった。
弥勒 「やはり結界だったか。珊瑚!!!」
珊瑚 「法師様!!みんな!!」
空心 「来たか。」
弥勒 「珊瑚を返してもらおう。」
空心 「渡さぬ。返して欲しければ四魂のカケラをよこせ。」
犬夜叉「誰が渡すか!」
空心 「では珊瑚は渡さん!皆の衆!!」
家来 「はっ!」
空心 「やれ!」
7人は結界の中から攻撃を始めた。
シュッ
犬夜叉「ぅゎ!手裏剣!ちっ行くぞ弥勒!」
弥勒 「まずは結界を破らなければ!」
空心 「無駄だ。我が結界は破れぬ。」
弥勒 「たぁっ!!」
バチッ
弥勒 「くっ・・」
弥勒は弾き飛ばされてしまった。
犬夜叉「風の、傷!!」
バチバチバチッ
風の傷も跳ね返された。
珊瑚 「みんな・・・・(でも、結界が壊れたら・・・)」
かごめ「あたしの矢なら・・・」
キリッ・・
かごめが構える。
空心 「破魔の矢か・・・キツイな・・」
珊瑚 「ぇ・・・」
シュッッ
かごめは勢いよく矢を放った。
シュゥ!
かごめの矢は跳ね返されなかった。
だが、通り抜けただけで壊せていない。
かごめ「なんで・・」
穴の空いたところを、空心は念をこめて修復した。
珊瑚 (よかった・・・)

再び7人の家来たちの攻撃が始まった。
次から次へと手裏剣が飛んでくる。
犬夜叉たちはなんとかかわす。
だが、
ガクッ
犬夜叉がイキナリひざまずいた。
かごめ「犬夜叉!」
かごめが傍に駆け寄る。
犬夜叉「ちくしょう・・・傷が・・開いた・・」
?!
珊瑚 「嘘・・まだ治ってなかったの・・・・ねぇ空心、もうやめて。」
空心 「あいつらがおまえのことを諦めぬかぎり私は攻撃をやめぬ。」
珊瑚 「え・・・四魂のカケラが欲しいんじゃなかったの?」
空心 「四魂のカケラなんか、もうどうでもいい。今は、おまえが欲しい!私はおまえを愛してしまったのだ!」
珊瑚 「な・・・・なんでそうなるの・・・」
空心 「鈴心となにからなにまでそっくりなおまえは、私の心を掴んで離さないのだ。」
珊瑚 「・・・・あんたが好きなのは、あたしじゃない。あたしに似ている鈴心さんだろ?!」
空心 「・・・・・・・・・・・・」

犬夜叉は立ち上がれなくなっていた。
弥勒 「犬夜叉!そのへんで休んでいなさい。珊瑚!必ず助けます!」
珊瑚 「法師様・・・」

白心 「しぶといやつらだ。」
白心は胸の前で手を組んだ。
白心 「光【こう】!!」
すると、どこからともなく光が現れ、弥勒に向かって飛んでいった。
イキナリの出来事だったので、弥勒はよけきれず飛ばされる。
弥勒 「くっ・・・」
珊瑚 「法師様!」
珊瑚は白心に向かって叫んだ。
珊瑚 「なんで、なんであんなことするの?!あんたたちは、生き物が好きなんでしょ!
    人間は、生き物じゃないの?!」
珊瑚は泣きそうだった。
白心 「珊瑚様・・・たとえ人間が生き物で、命あるものだとしても、私どもは、空心様の命令に従う。」
珊瑚 「そんな・・・」
弥勒が起き上がる。
弥勒 「諦めませんよ、私は・・・珊瑚を取り戻すまで・・・」
珊瑚は俯いた。
珊瑚 「もう・・・いいよ・・・」
弥勒 「珊瑚?」
珊瑚 「もういい、だからやめて!あたしのことなんてどうでもいいよ!」
弥勒 「珊瑚・・・」
珊瑚 「みんなが・・・法師様が傷つかなくてすむんなら、あたし、誰の嫁にでもなるよ!!!」
弥勒 「なっ・・・」
珊瑚 「犬夜叉は、昨日あたしがつけた傷の所為で・・・
    法師様だって、もうボロボロじゃない!もう・・・いいよ・・・いいから・・・」
ザッ
犬夜叉が立ち上がった。
犬夜叉「おまえ、俺たちに気ぃ使ってるならやめろ。」
珊瑚 「・・・・・・・・」
犬夜叉「おまえがその気なら、俺らも勝手にやらせてもらう。いいな。」
珊瑚 「だから、いいって言ってるだろ・・・」
珊瑚の顔が曇る。
犬夜叉「よし。じゃあ諦めねーぞ。」
珊瑚 「へ・・・」
犬夜叉「勝手にするぜ。」
珊瑚 「あ・・・(やられた。)」
弥勒 「そういうことです。では、いきますよ!」
犬夜叉「おぅ!!くっ・・・・・・・・・・・・」
犬夜叉はまたひざまずいてしまった。
かごめ「犬夜叉!」
犬夜叉はまだ無理そうだ。

弥勒 「はぁ!!」
弥勒は再び錫杖を持ち、結界に向かう。
黒心 「無駄なことを!雷!!!」
黒心の手のひらから雷が飛び出し、弥勒にまともに当たる。
バチバチバチッ
弥勒 「か・・・・・」
ドンッ
弥勒は仰向けに倒れたまま動かなくなってしまった。
珊瑚 「法師様!法師様!!」
空心 「どうやら私の勝ちのようだな。」
バチッバチッ
空心 「なんだ?!――?!珊瑚!!」
珊瑚は、自分の体を結界に打ち付けて破ろうとしていた。
空心 「なにをしている?!ボロボロになるぞ!」
珊瑚 「いいよ!!それでもいい!出して!法師様の傍に行かせて!!」
珊瑚は尚も自らの体を痛めつける。
バチッバチッ・・・
珊瑚 「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・」
珊瑚の動きが止まる。
右腕は火傷をしていて、赤く爛れている。
空心 「くっ・・・珊瑚、やめろ・・・」
珊瑚 「やだよ!!」
空心 「やめるんだ!!」
空心は珊瑚の左腕を掴んだ。
珊瑚 「いや!!」
空心 「じっとしろ・・・」
珊瑚 「ぁ・・・」
空心は、珊瑚の手首についていた、腕輪を取った。
珊瑚 「出て・・いいの・・?」
空心 「これ以上、おまえを傷つけるわけにはいかない・・・」
珊瑚 「ありがとう・・・」
珊瑚は弥勒の傍に走っていった。
己の右腕も相当痛いはず。
だがそんなことは忘れていた。
頭の中は弥勒のことでいっぱいだった。
珊瑚 「法師様!!」
珊瑚は涙を流しながら弥勒を抱き起こした。
弥勒 「ぅ・・・・珊瑚・・・?」
珊瑚 「法師・・・様・・・」
弥勒の無事を確認したとたん、珊瑚の体は後ろへ倒れた。
ダッ
弥勒 「珊瑚!・・・ちっ・・かごめ様!!珊瑚をお願いします!!」
かごめ「わかったわ。」
かごめが救急箱を片手に走ってきた。
かごめ「犬夜叉!珊瑚ちゃんを運――」
イキナリ、かごめと珊瑚をバリアのようなものが覆った。
かごめ「な、なに?!」
そのままバリアは宙に浮き、珊瑚を休めるのに丁度いい場所に降り立った。
やったのは空心。
空心は珊瑚を傷つけたくはなかった。
かごめ「・・・結界をはってくれてるの・・?」

空心 「私はまだ、珊瑚を諦めてはいない!!!」
弥勒 「私も諦めてはいませんよ!」
空心 「皆の衆、あとは私が引き受けた。下がっていろ。」
家来 「はっ。」
空心は7人の家来たちがやったように、胸の前で手を組んだ。
犬夜叉「くるぞ弥勒!!」
端のほうにいる犬夜叉が叫んだ。
弥勒 「私の結界もそれなりに強力!跳ね返すことぐらいできるでしょう!」
空心 「無駄だ。人間の作る結界ごとき、容易く破れる。」
弥勒 「そんなことは百も承知。だが、私の結界を破った瞬間、私の全ての法力が放たれ、
    おまえの結界を打ち砕く!」
犬夜叉「おい、弥勒!それじゃおまえは・・・」
弥勒 「かまわん!珊瑚が一生こんなやつと過ごすくらいなら、私の命など惜しくはない!」
空心 「これが、最後の勝負のようだな・・・強いものが勝ち、弱いものが負ける・・・
    ふ・・・これで負けても、私には悔いはない・・・もともと、鈴心がいなくなった今、私には
    生きている意味はないのだから・・・」
弥勒 「私も悔いはありません。珊瑚を守ることが私の使命ですからね・・・」

珊瑚 「ん・・・・・・」
結界の中で、珊瑚が目を覚ました。
かごめ「あ、珊瑚ちゃん、気が付いた――」
珊瑚 「やめさせなくちゃ・・・」
珊瑚はフラフラの足で立ち上がり、結界の外に飛び出した。

弥勒 「はぁ!!」
空心 「たぁ!!」
空心が手のひらを弥勒に向ける。
弥勒が結界の中に法力を込める。
ビュッ
空心の手のひらから光が放たれた。
珊瑚 「やめてぇ!!」
珊瑚が間に入った。
珊瑚は空心の出した光をまともに食らった。
珊瑚 「・・・あたしのせいで、みんなが傷つくのは、もういやだ・・・」
弥勒 「珊瑚!!」
弥勒が珊瑚に近づく。
ふら・・・
珊瑚は前のめりに倒れた。
弥勒が支える。
珊瑚 「もう・・・やめて・・・」
弥勒 「珊瑚!珊瑚!・・・死ぬな!珊瑚ぉ!」
空心 「なぜ・・・」
そのとき・・・
鈴心 「空心・・・」
?!
空心 「鈴心!!おまえ、生きて・・・」
鈴心 「いえ・・私はもう死んでいます。結界からでられないあなたは知らなかったでしょう。
    私はこの場所で死んだのです。あなたとの約束通り、父の葬儀の後、戻ってきました。
    ですが、この場所に来たとき、4人ほどの法師が、結界を破ろうとしていました。
    私はそれを止めに入り、死んだのです・・・」
空心 「鈴心・・・結界を・・私を守ってくれたのか・・」
鈴心 「私は、生前あなたに多くのことで救っていただきました。
    せめてもの恩返しと・・・・」
空心 「そんな・・・」
鈴心 「空心、もうおやめなさい。いま、この娘は、私と同じような気持ちで二人を止めに入ったのです。」
弥勒 「な・・・」
鈴心 「この娘は、そう、あなた、法師様を守りたかったのです。」
鈴心は弥勒を指差した。
鈴心 「ですが、それだけではなかった・・・空心、あなたの結界を・・あなたをも守りたかったのです。」
空心 「?!」
鈴心 「あのときと、同じです。こんなこと、二度と繰り返してはいけません。
    おやめなさい、空心・・・」
空心 「・・・・・すまない・・鈴心・・珊瑚・・・」
空心は下を向いてしまった。

珊瑚 「ぅ・・・・」
弥勒の手の中の珊瑚が目を覚ました。
弥勒 「珊瑚!!」
珊瑚 「法師様・・・・あたし・・・・」
弥勒 「珊瑚、よかった・・・」
弥勒は珊瑚を抱きしめた。
珊瑚 「///法師様・・・・・あたしの所為で、こんなにボロボロになって・・」
弥勒 「私は平気です。それよりおまえが・・・」
珊瑚 「大丈夫だよ・・鈴心さん、あんた、あたしに結界を張ってくれただろ。だから、平気。」
珊瑚は鈴心と向き合う。
鈴心 「・・・・・・ありがとうございます・・・」
珊瑚 「ぇ・・・」
鈴心 「あなたは空心に、いつまでも私の残像を追いかけていてはいけないことを教えてくれました・・・」
珊瑚 「そんな・・・」
鈴心は空心に向き直った。
鈴心 「鈴心、さようなら・・・私より大事だといえる人を必ず見つけてください・・・」
鈴心は消えた。
空心 「鈴心・・・・・・・・」

ザッ
犬夜叉「おまえら、帰るぞ・・・」
犬夜叉がゆっくり立ち上がった。
かごめ「うん!」
弥勒 「はい・・」
珊瑚 「・・・・」
珊瑚は答える代わりに大きくうなずいた。
空心 「珊瑚・・!」
珊瑚は振り返った。
空心 「一度だけ・・おまえを、鈴心として抱きしめさせてくれないか・・・」
珊瑚 「・・・・・・・」
珊瑚は回れ右をして空心のところに歩いていった。
弥勒 「お、おい、珊瑚・・・」
後ろでは弥勒が焦っている。
珊瑚は空心の前に立った。
バッ
空心は力強く珊瑚を抱きしめた。
空心 「すまない・・・」
珊瑚 「・・・・・・」
珊瑚はただ黙って、抱かれていた。
やっと空心が離した。
そして、珊瑚と目を合わせた。
空心 「珊瑚、すまなかった・・・傷つけてしまって・・・」
珊瑚 「いいよ。あの、さ。ありがとね、結界から出してくれて・・」
珊瑚は少し顔を紅くして言った。
空心 「・・・・・・仲間が・・待っているぞ・・」
珊瑚 「うん・・・・」

珊瑚は仲間のもとへ駆けていった。
まだ傷は痛むが、みんなのところへ、一秒でも早く行きたかった。

★おまけ★
弥勒 「珊瑚。」
珊瑚 「なに?」
弥勒 「おまえあのとき、なぜ黙って抱かれていた。」
弥勒は怒っているようだ。
珊瑚 「ぇ゛。え〜っと、そのー・・それは、聞かないで。」
弥勒 「な゛・・・おい、珊瑚、それはないだろう・・・
    では、空心がいいのですから、もちろん私もいいですよねv」
弥勒が珊瑚に手を伸ばす。
珊瑚 「ちょ、ちょっと///って、どこ触ってんのさ!この、生臭坊主が!!」
ぱち〜ん
威勢のよい音がそこら中に響き渡った。
あとがき
あ〜長かったです。
制作期間、5日ですよ。
てゆーか、前作のあとがきに、
「まだまだ続きますよ→」
なーんてえらそうなこと書いたのに、たった2話で終わっちゃいました。
すみません。

<<トップページに戻る

▲このページの上へ