「夏祭りのすれ違い」   さつきサマ
珊瑚 「楓様ー。なんかやることない?」
楓の小屋の中でだらしなく転がっているのは珊瑚。
楓  「すまんがもうないよ。」
珊瑚 「そっかー。」
普段やることを、午前中に全て終わらせてしまった珊瑚は、とても暇だった。
犬夜叉「いつものように弥勒を殴りにいきゃいいだろが。」
かごめが「しゅーがくりょこー」というやつで帰ってしまい、犬夜叉はご機嫌斜めだった。
珊瑚 「やだよ。今日は法師様には構わないって決めたんだもん。」
珊瑚が不機嫌な顔をする。
弥勒は朝から村の女たちのところへ出かけていったのだった。
楓  「珊瑚、村祭には行かんのか。」
珊瑚 「え、そんなのがあるの?知らなかったよ。」
楓  「この村の祭は大きくて評判だよ。七宝と行ってはどうだい?」
珊瑚 「うーん・・七宝は朝早くから出かけてるよ。
    なんでも、今日は七宝の父上と母上の命日なんだってさ。」
楓  「そうか・・」
珊瑚 「でも祭、ちょっと興味あるなー。あとで、ちょっと一人で覗いてくるよ。」
楓  「一人はやめておいたほうがよいぞ。最近この村でも、法師殿のような輩が増えておってな。」
珊瑚 「え゛。」
楓  「犬夜叉、一緒に行ってやってはどうだ。」
犬夜叉「な゛っ・・なんで俺が・・」
珊瑚 「そうだよ、あたし、一人でも大丈夫だし――」
楓  「もし珊瑚が危ない目にあったら、一人で行かせたおまえが法師殿に殴られることになると思うがな。」
楓はわざと大きな声で言う。
犬夜叉「うっ・・・・あ〜も〜行ってやるよ!けっ・・・」
犬夜叉はまた寝転がってしまった。
珊瑚 「はぁ・・・」

楓  「珊瑚、わしの昔の浴衣、着てみなさい。」
珊瑚 「え・・いいよ、あたし、そういうの似合わないし・・」
楓  「そんなことはない。ほれ、犬夜叉、外に出ろ。」
犬夜叉「けっ・・・ったく・・・」
犬夜叉は素直に従った。

珊瑚 「ごめん、犬夜叉、待ちくたびれただろ?」
犬夜叉「おぅ・・・って///」
出てきた珊瑚はそれはそれはかぐや姫のように美しかった。
珊瑚 「ん?なに?」
珊瑚は青のきれいな柄の浴衣を身にまとい、髪は高く結い上げ、小さな巾着袋を持っていた。
犬夜叉「な、なんでもねぇよ。行くぞ。」
珊瑚 「うん・・」

珊瑚 「わぁ・・・すごい人・・」
ワイワイガヤガヤと、300人ばかりが祭を楽しんでいた。
珊瑚 「じゃ、行こ。」
犬夜叉「おぅ。」
珊瑚と犬夜叉は人込みの中を歩いていった。

珊瑚 「あ、ねぇ犬夜叉、これしない?」
珊瑚が指差したのは射撃。
最近日本に伝わったばかりの銃。
これは、その銃を改造し、木の玉が飛ぶようになっている。
珊瑚は金を払うと、狙いを定めた。
バンッ
当たらない。
玉は3つ。
結局ひとつも当たらなかった。
珊瑚 「結構むずかしいもんだね。犬夜叉もやる?」
犬夜叉「おぅ。」
店の人から銃を受け取った途端
バンバンバンッ
犬夜叉は連続で発射した。
パタッ
全て命中、3つとも倒れた。
店の人「す、すごい・・」
珊瑚 「犬夜叉・・・」
店の人は犬夜叉に景品を3つ渡した。
犬夜叉「ほらよ。」
犬夜叉は、とった景品を3つとも珊瑚に渡した。
珊瑚 「え・・これ、あたしに・・?」
犬夜叉「俺はいらねーしな。」
珊瑚 「・・・///」
珊瑚の手の中には、花火、飴、くまのぬいぐるみが顔を覗かせている。

しばらく歩いていると、金魚すくいがあった。
珊瑚 「あ、あたしあれ、得意なんだよね。」
さっそくやり始めた珊瑚。
ぴちゃんっ
その横で犬夜叉もやってみる。
犬夜叉「あ・・・おい、もう破れたぞ。」
珊瑚 「そんなにいっぺんに水につけたら破れるに決まってるだろ。」
珊瑚の手桶を覗いてみると、もう15匹ほど入っている。
それでも珊瑚の手はとまらない。
犬夜叉が感心して見ていると、とうとう全ての金魚をすくってしまった。
店の人「なんてことだ・・・もう売り切れちまうとは・・今年も赤字じゃねーか・・」
にこっ
珊瑚が笑った。
珊瑚 「3びきでいいよ。」
店の人「おぉ!それは嬉しい!」
珊瑚は3匹を残して、あとの金魚は返してやった。

犬夜叉「おい、腹減った。」
珊瑚 「何食べたい?」
犬夜叉「あれ。」
犬夜叉が指差した先には焼きソバ屋。
珊瑚 「焼きソバ?」
犬夜叉「おぅ。」
珊瑚は犬夜叉に焼きソバをひとつ買った。
そして、自分はワタアメを。
犬夜叉はものの10秒ぐらいで焼きソバ一人前を平らげてしまった。
その横で、珊瑚はワタアメをちょこちょこちぎって食べている。
犬夜叉「それ、うめぇのか?」
珊瑚 「え?あ、うん。食べる?」
犬夜叉「おぅ。」
珊瑚はちょっと大きめにワタアメをちぎり、犬夜叉の口に運んでやった。
犬夜叉「あめぇな。」
珊瑚 「そう?」
今の光景、誰が見ても恋人同士にしか見えなかった。
当の二人は全く気にしていないのだが。

珊瑚 「あ・・・・ね、犬夜叉。ちょっとあの店見て行っていいかな?」
犬夜叉「好きにしろ。」
珊瑚は、かんざし屋に歩を進めた。
犬夜叉「おまえ、そんなのに興味あったのか。」
珊瑚 「悪い?・・・でも、見るだけね。買わない。」
犬夜叉「あ?ぁんでだよ。」
珊瑚 「どーせ似合わないしね。」
犬夜叉「んなことねーだろ。」
珊瑚 「・・・・・・・・」
店の人「いらっしゃい、美しいお嬢さん。」
珊瑚 「ぇ・・・///」
店の人「どれにします?」
珊瑚 「あ、見るだけ、だから。」
店の人「そんなぁ・・・もったいない。お嬢さんならなんでも似合いますよー。」
珊瑚 「そ、そんなこと・・・」
店の人「お安くしときますから、そこの彼氏さん、買ってあげてはどうです?」
犬夜叉「か、彼氏ぃ?!」
珊瑚 「ちがうって///」
店の人「ははははは・・・あ、お嬢さん、これなんかどうです?あんまり邪魔になりませんし。
    お嬢さん、なにか動く仕事するでしょ。その年格好にしては、細すぎるよ。
    なにか激しい仕事してる証拠だよ。」
珊瑚 「・・・・・・・・・」
犬夜叉「おぃ。」
珊瑚 「あ、ゴメン、もう行くよ。」
珊瑚は立ち上がりかけた。
犬夜叉「これなんか・・・いいんじゃねーか?」
犬夜叉は、紅い、飾り玉のついたものを指差し、そっぽを向いてしまった。
珊瑚 「ぇ・・・///ぁ、ありがと・・///」
店の人「これですね。・・・・・・はい、どうぞ。」
店の人は珊瑚に、袋にいれたかんざしを渡した。
珊瑚 「いくら?」
店の人「・・・・タダです。」
珊瑚 「え・・・・」
店の人「たぶん、このかんざしが似合うのは、あなただけでしょうから。」
珊瑚 「・・・///」

また二人は歩を進めた。
そのとき。
弥勒 「みなさん、何が欲しいですか?」
女1 「金魚すくいやりた〜い。」
女2 「あら、かんざし買ってぇ〜」
弥勒 「では、順番に回りましょう。」
女3 「やったぁ!」
道の反対側を弥勒たちが通っていった。
珊瑚 「法師様・・・」
犬夜叉「あ?弥勒じゃねーか。おい!みろ――」
珊瑚は両手で犬夜叉の衣を引っ張った。
珊瑚 「いいよ。行こう。」
珊瑚は犬夜叉を引っ張ったまま、弥勒と反対のほうに進んだ。
二人はすれ違った。
弥勒は気づいていないらしい。
女たちと楽しそうに喋っている。
そんな弥勒を見ている珊瑚は、とても辛そうだった。
犬夜叉(ったく・・・)

珊瑚 「・・・次、なにしたい?」
犬夜叉「まだやるのか?もう持てねーだろ。」
いろいろな店を回った二人の手の中には、いろいろな品物が。
といっても、ほとんどを持っているのは犬夜叉。
珊瑚はヨーヨーと金魚ぐらいだった。
珊瑚 「もう疲れた?じゃ、花火見ようよ。」
珊瑚は、さきほどもらった花火大会のびらを見せた。
犬夜叉「字が読めねぇ。」
珊瑚 「・・・・はぁ・・・あと30分だって。行く?」
犬夜叉「おまえが行きたいんなら。」
珊瑚 「うん。行きたい。」
犬夜叉「じゃ、ちょっとその辺で待ってろ。荷物置いてくるから。」
珊瑚 「え・・あたしも行く。」
犬夜叉「一人のほうが早い。はやくしねぇと、始まっちまうだろ?花火。」
珊瑚 「・・・うん・・早く帰ってきてね。」
犬夜叉「おぅ。」
犬夜叉は楓の小屋のほうに駆けていった。
珊瑚 「・・・・・・・・・」

男1 「よぅ、ねーちゃん。俺たちが遊んでやろうか。」
珊瑚 「間に合ってるよ。」
男2 「そんなこと言わないでさ。一人じゃ寂しいだろ。」
珊瑚 「大丈夫だから。」
男1 「もうすぐ花火あるぜ。一緒に行こうか。」
珊瑚 「断る。」
男2 「なんだ?ねーちゃん、男いるのか?」
珊瑚 「・・・いるよ。」
男1 「へ〜。じゃ、俺たちとは遊んでくれないの。」
珊瑚 「そういうことになるね。」
男2 「じゃ、しょうがないから力ずくで遊んでもらおうか。」
珊瑚 「なっ・・・」
男二人は珊瑚に近づいてきた。
犬夜叉「おぃ!珊瑚!」
珊瑚 「犬夜叉・・・」
犬夜叉「こっちこい。」
珊瑚 「うん・・・」
珊瑚は犬夜叉のほうに走っていく。
男1 「お、おぃ、行くぞ・・・」
男2 「おぅ・・」
男達は、珊瑚の相手が犬夜叉だと知ると、一目散に走って逃げた。
犬夜叉は、ここらではちょっと、有名なのだ。
乱暴者で。
犬夜叉「ったく。なぁにやってんだよ。」
珊瑚 「だって・・・この服じゃよく動けないから・・」
珊瑚は自分が着ている浴衣に目を落とす。
犬夜叉「・・ほら、行くぞ。見るんだろ、花火。」
珊瑚 「あ、あぁ。」

珊瑚 「うわぁ・・・人、いっぱい・・座るとこあるかな?」
犬夜叉「珊瑚!こっち空いてッぞ。」
珊瑚 「あ、ホントだ。――ひゃっ・・」
振り向いた珊瑚は、人込みに押され、倒れる。
犬夜叉「っと。おまえの服、ホントに動きにくいんだな。」
珊瑚 「/////」
ヒュ〜〜〜
ドー――ン!!
珊瑚 「あ、始まった。」
二人は地面に座る。
服の上からでも、ひんやりとした土の温度を感じる。
珊瑚 「きれい・・」
犬夜叉「あぁ・・・」
犬夜叉も見入っているようだ。
珊瑚 「犬夜叉。」
犬夜叉「ん?」
珊瑚 「あの、さ。今日は、付き合ってくれてアリガトね。楽しかったよ。」
珊瑚は満面の笑みを浮かべる。
犬夜叉「///べ、別に・・なんか久しぶりに、俺も楽しかったしな・・」
犬夜叉の顔が赤くなる。
珊瑚 「なんか、戻りたくないな・・・」
犬夜叉「あ?」
珊瑚 「ううん、なんにもない。」
花火大会のフィナーレ。
ドドドッ
ド〜ンッ
珊瑚 「終わっちゃった・・」
犬夜叉「じゃ、帰るぞ。いいな。」
珊瑚 「うん・・・」
あとがき
大勢の中、珊瑚ちゃんと弥勒サマはすれ違います。
なんか寂しそうな珊瑚ちゃん、を書きたかったんですが、ビミョーな出来栄えに。
ま、そういうときは、笑いましょう。はっはっはっはっはー(笑笑

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