季節は、弥生の中旬。
かごめはテストがある為、現代へ戻っている。
犬夜叉はかごめに今度ばかりは来ないでと言いつけられ、
仕方がなく戦国の骨食いの前で待つことにした。
早朝。
まだヒンヤリと寒く、楓の小屋で火にあたって暖まる、楓、七宝、弥勒、珊瑚。
「珊瑚。すまぬが、犬夜叉を呼んできてくれないか?朝飯にしよう」
「分かった。七宝、一緒に行こう」
珊瑚は七宝と犬夜叉を呼びに行った。
昼過ぎになると、少し暖かくなってきた。
楓は外出中。
犬夜叉と七宝はまた、骨食いの井戸の前でかごめを待つ。
小屋の中で二人きりの弥勒と珊瑚は、退屈してる様子。
「誰もいないと、本当……ヤル気が出てこないね。ね、雲母」
み〜と、珊瑚に答えるかのように雲母が鳴く。
そんな珊瑚に、弥勒は言った。
「では、その辺を散歩しましょうか?」
「――――。えっ?だ、誰と……!?」
「私と決まっているじゃないか」
珊瑚は急に、心臓がドキドキしてきた。
だが、ずっと小屋の中にいても、つまらない。
弥勒と珊瑚は一緒に、近くを散歩することにした。
「見て!法師様!桜の木に蕾がついてるよ!」
「本当だ。春はもう目の前に来ているということですな。
……珊瑚、足元もご覧なさい。小さな花の蕾が沢山ついている」
「はははっ、カワイイね!」
そこらを散歩すると、色んなものを発見する。
適当に歩いてると、いつのまにか村はずれの、何もない原っぱへきていた。
ここも花の蕾がいくつもあり、既に咲いていている何輪もあった。
「大分歩いたな。少し、休もう」
大きな木に腰を下ろす二人。
珊瑚はあることを思いついた。
「法師様、この花で花環作ってあげる!」
「作れるのか?」
「……失礼だね。昔、里でよく作ってたんだから!」
珊瑚は草原に咲く花を何輪か摘み、花環を作り始めた。
そんな珊瑚の姿を弥勒はじっと見つめる。
まもなくして、花環は出来た。
「はい、法師様」
「ほお〜、これはまた上手くできてますなあ」
珊瑚の顔は梅色。
心臓はまだドキドキしていている。
その時、珊瑚は嫌な感触を感じた。
弥勒にまた、尻をなでられていたのだ。
「触るところが……違うだろ!」
珊瑚は弥勒の頬を引っ叩く。
「――――。珊瑚が私に背を向けますから」
「だからって……触ることないでしょ!?」
こんな事、いつものことなのに今日はそんなに頭にこない。
そこに、暖かい風が吹いてきた。
「いい風だ……もうすぐ春だな」
風を浴びながら、珊瑚は、青空をいっぱいに眺めていた。
その時、太股に重いものがのしかかった。
下を向くと弥勒の頭が乗っかっていた。
「……法師様!?」
弥勒は目を瞑りながら、珊瑚に言った。
「し……っ。こうしてると、とても落ち着くんだ……」
小声で弥勒が言うと、弥勒はそのままスーっと眠ってしまった。
いつも冷静、時に強気な弥勒でも、寝顔は愛らしい赤ん坊のまま。
弥勒の寝顔を見つめる珊瑚。
「今日くらい、特別に許しあげるよ。おやすみなさい、法師様」
そして珊瑚も、木にもたれて眠った。
目を覚ますと、夜になっていた。
日が沈んだせいで一気に冷え込んだ。
弥勒と珊瑚は急いで、楓の小屋へ戻る。
「……くしゅん……」
珊瑚は思わずくしゃみをした。
「寒いか?……これを――。これで少しは寒さを凌げたらいいが」
弥勒は袈裟を脱ぎ、珊瑚の体に羽織った。
「えっ。でも、法師様が……」
「私は平気ですから。お前が着てなさい」
二人は偶然、かごめと、犬夜叉、七宝が歩いてきた。
「珊瑚ちゃん、弥勒様!」
「かごめちゃん。おかえり」
「おめえら、こんな刻限まで何してたんだ?」
「そんなこと言えません。私と珊瑚の二人だけの秘密ですよ」
かごめと七宝は密かに察した。
だが犬夜叉は相変わらずの鈍感で、全く気づかない。
尚しつこく弥勒に迫る。
「秘密だとぉー?何したかくらい、言えばいいじゃねえか。ほら、とっとと言えよ。ほらっ、ほら!」
しつこく迫る犬夜叉に、弥勒は急に態度を変えた。
「犬夜叉……秘密と言ったら……秘密だ!
いつまでもシツコク聞いてくんじゃねぇよッ!このボケ!アホ!」
弥勒が不良になってしまった。
皆、五十メートル引き下がった。
「や、やっぱ弥勒はとても法師とは思えん」
「ね、ねえ、もういいから帰ろ!いつまでも外にいたら、風邪引いちゃう!」
「そうですな。帰りましょう」
「……ってぇ〜。ったく、弥勒の野郎〜……」
弥勒の不良を久々見た後、一行は楓の小屋へ戻っていった。
弥勒は冷たくなっている珊瑚の手を手をつないで暖めている。
「ねぇ法師様、耳かして!」
「はて、何でしょう?」
珊瑚が言った後、弥勒も珊瑚の耳元で、言葉を返した。
――THE END――
-今日はありがとう。法師様、大好き!-
-私もですよ、珊瑚-
あとがき
短編第二段です。
“HANABI”を書いたその年の冬に書いたものです。
自分が書いて思ったコトw
こういう優しくて、頼りがいのある彼氏……欲しいなあ……w