「狂い咲き」   神田志摩サマ
季節は真冬。桔梗はとある山のふもとにある村でここ数日お世話になっていた。
「うわー!!桔梗様見てください!!こんな真冬にほら!満開の桜です。」
桔梗に話しかけている少女の名前は春子。春子はこの村の寺の娘だ。
今日は二人で薬草をとりに出かけていた。
「あぁ。本当に綺麗だ。」
桜は春に見ても美しいが雪といっしょにみても美しい・・・・今も昔も・・・・
そう考えながら桔梗は桜の木にもたれかかった。
「桔梗様・・・・・?お体の調子が悪いのですか?」
「い・・・いや。春子は寒いから先に寺に帰っていなさい・・・・」
「・・・・でも・・・」
「私はもう少し薬草をとってから帰らねば。
もっと雪がつもったら春まで薬草がとれないだろう?さぁ。春子は帰りなさい。」
そう言うと戸惑う春子の背中を押した。
「分かりました・・・・・。早く帰ってきてくださいね。」
「あぁ。夕方までには必ず」
桔梗は微笑みながら春子に言い聞かせた。
春子が帰っていくのを見とどけると桔梗はその場にうずくまった。
今は一人になりたいのだ。いや・・・。この美しい桜と二人きりになりたかった。

「犬夜叉は覚えているだろうか。あの雪降る日。
二人で山に薬草を取りに行ったとき見つけたあの満開の桜を・・・・・。」
確かあれは犬夜叉がわたしに心を開いてまだ少しのとき・・・・。
私は犬夜叉を連れて村から少し離れた山に薬草を取りに行った。
犬夜叉は口では嫌がっているように見えたがきっと本心ではないと思った。
その証拠に私がいくら帰ろうと言ってもなかなか帰ろうとしなかった。
まるで子供のように・・・。
「さぁ犬夜叉。もう帰らねば。日が落ちれば道に迷ってしまう」
「うるせぇ。俺は帰らなくたって平気だぜ。」
「だか私が困る。夜雪山で一晩でもすごしてみろ。凍死してしまうではないか・・・・」
「ちぇっ。わかった。帰ればいいんだろう」
駄々をこねる犬夜叉を何とか言い聞かせて帰路についた。
しかしそのときにはもう日が傾いていて30分後には真っ暗になっていた。
気温もどんどん下がってきた。
桔梗としてもこれ以上この山の中にいたらどうなるかわからない・・・。
「う・・・寒・・・・・」
ついに桔梗はその場にうずくまってしまった。
「おっおい。どうしたんだよ・・・?」
犬夜叉はうってかわって元気だった。
「お・・・お前。この吹雪の中をよく平気で・・・・」
「俺は弱いにんげんとは体のつくりがちがうんでぃ。」
「そ・・・そうだったな。私は弱い人間・・・・。もう限界だ」
私はそのとき初めて弱音を他人に言ってしまった。
「なんでぃ。今日はやけに素直じゃねぇか。らしくねぇぞ。」
「そ・・・うか・・・・」
「おっおぃ。大丈夫かよ?」
犬夜叉はすこしびっくりしながらも私を心配してくれた。
「ちっ。しょうがねぇな。確かあっちのほうに山小屋があったっけ?
そこなら少しは休めそうか?」
「あぁ・・・・。」
私の返事を聞くと犬夜叉は私を横抱き(お姫様抱っこ)してその山小屋まで連れて行ってくれた。
思えば私はこのときから犬夜叉のことが好きだったのかもしれない・・・・・・。
山小屋に着くと犬夜叉は私をワラのうえに寝かせ自分の着物をかけてくれた。
「お前やっぱ寝てたほうがいいぞ。夜が明けたら楓のところに送ってやるから・・・・。」
「・・・・あろがとぅ・・・・」
声が震えてうまくいえなかった・・・・・。
「すまねぇ。俺があの時帰ってたら・・・・」
そういうと犬夜叉は立ち上がりどこかへ行こうとした。
「い・・・ぬやしゃ・・・・ど・・こ・・へ?」
私は精一杯声を出した。
「妖怪が襲ってくるかも知れねぇだろ?戸の前で見張っててやるよ。」
「で・・でも。そんなことしたらおまえが・・・」
「何回言わせたら気がすむんだよ?おれはお前たちとは体の作りがちがうんでぃ。」
犬夜叉はそういうとささっと出て行ってしまった。こんなに優しい犬夜叉を見たのは初めてだった。
私はそのまま朝まで眠ることが出来た・・・・・。
「ん・・・・・」
鳥の声で目が覚めた。私はふらつく足取りで歩き戸の方へいった。
「犬夜叉?」
戸を開けると犬夜叉が眠っていた・・・・。寝顔を見るのも初めてだった。
「ん・・・・?き桔梗!もう体は大丈夫かよ?」
「あぁ・・・・。すっかり良くなった・・・・。」
「じゃあ帰るか。」
「あぁ。」
私たちは山小屋を出て再び帰路についた。
そとは一面の銀世界だったが村の人たちが火をたいていたので煙を頼りに帰ることが出来た。
しかしその途中ピンク色の薄い花びらが飛んできた。
「これ・・・は・・・?」
「なんでぃ?」
「桜だ」
そう。それは間違いなく桜だった。
「こんな真冬になぜ桜が?」
「狂い咲きじゃねぇか?」
狂い咲き・・・・・。それを聞いて私はその桜がむしょうに見たくなった。
雪と桜などもう二度と見ることが出来ないかもしれない。
私は犬夜叉に頼み込んで桜を探した。
「桔梗・・・・。これじゃねぇか?」
犬夜叉が指差した方向にはそれはそれは美しい満開に桜があった。
「綺麗だ・・・・・。」
私はその桜に見とれてしまった。
雪の白さと桜の淡いピンクが妙に合っていてなおかつ怪しい雰囲気で・・・・・。
「もういいだろぅ?帰るぞ。」
犬夜叉に怒鳴られたことで私はわれに返った。
「あっあぁ。すまない。かえるか」
私たちはそうして無事村に帰ることが出来た。

「覚えているだろうか・・・・?犬夜叉は。」
再び見つけた狂い桜の下で私は犬夜叉に言った。
いや・・・。この美しく怪しい桜に言ったのかもしれない。
「私の人生はお前にあったことで狂い始めた・・・・。」
そう。この桜を見つけた後鬼蜘蛛とであった・・・・・。
「・・・・・。帰らねば・・・。春子が待っている。」
私はそう自分に言い聞かせると寺に帰ることにした。

「狂い咲きか・・・・。私の人生そのものかもな・・・・」

桔梗はそのつぎの日新たな旅に出た。なぜかは自分でも知らない。
しかしこの桜にもうにどと会いたくなかったからというのは確実だ。
桔梗は果てない旅を続ける。
まさに狂い咲きの果てないたびを・・・・・・・。

<END>

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