「重なる顔」   さつきサマ
かごめ「犬夜叉、おすわり!」
グシャッ
犬夜叉「なに・・・しやがるかごめ・・・」
かごめ「あんたがデリカシーのないこと言うからでしょ!」

ここは戦国楓の村。
奈落を討つ旅の途中、つかの間の休息をとっている。
なぜまた犬夜叉が罰を受けているのかというと、
先ほど、弥勒がまた珊瑚にセクハラをし、いつもの平手打ちを受けていた。
犬夜叉がそんな珊瑚に、
『こいつは女の尻があれば他はなんにもいらねーヤツなんだぜ。
 おまえ、よくこんなヤツを好きでいられるなー。』
と言ったことが始まりだった。
珊瑚 「かごめちゃん、もういいよ。」
かごめ「ダメよ珊瑚ちゃん!悪いことしたときはちゃんとしつけて直さなくっちゃ!」
七宝 「思いっきり犬扱いじゃの。」
犬夜叉「かごめ、てめぇ・・・」
珊瑚 「でも、犬夜叉が言ったことも、全部間違ってるわけじゃないよ。
    ホントに法師様は―――」
弥勒 「それでは珊瑚、おまえは私のことが好きなのですねっ」
珊瑚 「え、あ、そ、それは間違ってるの!」
弥勒 「素直じゃないですなー珊瑚は。はははははー。」
珊瑚 「どさくさにまぎれて触るなー!!」
パッチーンッ
本日二度目の平手打ちだ。
七宝 「今日もいい音じゃ。」
雲母 「み・・・」

昼食が終わり、珊瑚は一人で川原に出かけた。
弥勒のことを怒っている所為もあったが、たまには一人になりたかったのだった。
川原に腰掛、手近にあった石を川の中に投げ入れる。
ポチャン・・・・
寂しげな音がした。
珊瑚 (はぁ・・・・龍太・・・・あんたはいつも、あたしのこと見てる?・・・・・)
珊瑚は草の上に寝転がった。
そして、そのまま寝てしまった。

弥勒 「?珊瑚か?」
弥勒はいつもの村娘たちのところへ行く途中、川原で寝ている珊瑚を見つけた。
すぐに傍に寄ってみると、あまりいい夢は見ていないようだ。
うっすらと汗が滲んでいる。
珊瑚 「ん・・・・・」
珊瑚が目覚めた。
弥勒 「起きましたか珊瑚。こんなところで寝ていたら、風邪を引きますよ。」
弥勒の背には太陽が輝いている。
ビクッ
珊瑚が震えた。
弥勒 「?!どうした珊瑚。」
珊瑚 「う、ううん、なんでもない、ごめんね!」
珊瑚はそのままどこかへ走り去ってしまった。
弥勒 「珊瑚??」

珊瑚 (なんで?なんでアイツの顔が・・・やだ・・・怖い・・・似てた・・・雷【らい】に・・・

その晩珊瑚は、誰が見ても分かるほど、弥勒を避けていた。
弥勒 「珊瑚、飯のおかわりをもらえますか。」
ビクッ
珊瑚 「ご、ごめん、あたしちょっと用事があるから、かごめちゃんお願い!」
そういうとすぐに外に飛び出してしまった。
雲母もあとへ続く。
かごめ「珊瑚ちゃん、どうしたのかしら。まさか弥勒様、また変なことやったの?」
部屋にいたもの皆が弥勒に疑いの視線を送る。
弥勒 「やってませんよなにも。」
七宝 「本当か?」
弥勒 「もちろんです。」
犬夜叉「あいつ、なんか怖がってるみたいだったぞ。」
七宝 「オラにもそう見えた。」
かごめ「珊瑚ちゃんが、弥勒様を?変ねぇ・・・」

晩飯も終わり、かごめが食器を片付けていると、珊瑚が帰ってきた。
珊瑚 「ゴメン、かごめちゃん。あとはあたしがやるから、休んどいて。」
かごめ「あぁ、大丈夫よ。珊瑚ちゃんこそ、顔色悪いわ。」
珊瑚 「そ、そんなことないよ。平気。だから―――」
弥勒 「珊瑚。」
ビクッ
弥勒が隣の部屋から入ってきた。
珊瑚 「な、なに?法師様。」
珊瑚はうつむきながら喋る。
明らかに目をあわさないようにしている。
弥勒 「私が、おまえになにかしたか?」
珊瑚 「え?べ、別に何にもしてないよ・・・あ、あの、ちょっと散歩行ってくるね。」
珊瑚は戸に向かって走る。
弥勒 「待ちなさい!」
弥勒は珊瑚の腕をつかみ、引き戻そうとする。
珊瑚 「ぃや!!」
弥勒 「?!・・・珊瑚・・・?」
珊瑚 「ゴメン・・・けど触らないで・・・」
弥勒 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
珊瑚は無理矢理弥勒の手をほどき、また外に出て行った。
弥勒 (あのときの珊瑚の顔・・・本当に怯えていた・・・なぜ私を避ける・・・)
かごめ「あの、弥勒様?」
弥勒 「・・・・・・・はい。なんでしょう。」
かごめ「珊瑚ちゃん、なんか顔色悪かったわよ。具合、悪いのかしら・・・」

珊瑚は夜遅くに帰ってきた。
そのとき起きていたのは犬夜叉だけだったのだが、きっと弥勒も起きていただろう。
犬夜叉「珊瑚・・・どこ行ってた・・・」
珊瑚 「ど、どこでもいいだろ・・・あんたには関係ない・・・」
犬夜叉「そうかよ。」
犬夜叉は目をつぶってしまった。
その日、珊瑚はできるだけ弥勒から離れたところで眠りについた。

次の朝、一番早く起きたのは珊瑚だった。
昨晩の償いという意味で、一人で朝食の準備をしていた。
しばらくすると、弥勒が起きてきた。
ビクッ
珊瑚 「あ、ほ、法師様、おはよ・・・」
弥勒 「おはようございます、珊瑚。今日は早いのですね。」
珊瑚 「う、うん。朝飯の用意しようと思って・・・」
かごめと七宝が起きる。
かごめ 「ぁれ?おはよ、二人とも・・・」
七宝 「ふぁぁぁぁぁ・・・オラまだ眠いぞぉ〜」
犬夜叉はもう、とっくに起きていて、タヌキ寝入りでもしていたのだろう。
なにくわぬ顔で起きてきた。
犬夜叉「飯、まだか?」
弥勒 「そういえば、昨日、楓様がお酒を頂いてきてくださいました。皆で飲みませんか?」
かごめ「え。あたし、向こうの国ではまだ未成年で法律違反なんだけど・・・」
弥勒 「かごめ様も、いまはこっちの国にいるのですから。こっちの国の決まりで生きたらどうです?」
かごめ「うーーーん。そうよね。じゃ、飲むわ。けど、ちょっとだけね。」
弥勒 「はい。」
珊瑚 「朝から飲むの?」
弥勒 「珊瑚は気が進みませんか?」
ビクッ
珊瑚 「そ、そんなことないけど・・・・・・・・・・・・」
弥勒 「では決まりですな。」
七宝 「オラも飲むのか?」
弥勒 「おまえは好きにしなさい。」
犬夜叉「俺もか?」
弥勒 「おまえももう15だろう。自分で考えたらどうだ?」
犬夜叉「るせーよ。」

そこで一行は、朝酒を飲むことにした。
かごめは一杯飲んだだけで酔ってしまい、弥勒の杯に次から次へと酒を注いでいた。
かごめ「弥勒様ぁ〜もっと飲まなきゃぁ〜ヒッくッ・・・」
犬夜叉「かごめ!おまえもうやめとけ!弥勒、おまえも飲みすぎてやしねーか?」
弥勒 「私は・・・だいじょーぶですよー。」
七宝 「酔っとるようじゃぞ。弥勒が酒に酔うなんてのぉ。」
犬夜叉「さすがに弥勒でも、あれだけ飲めば酔うに決まってるだろ。」
犬夜叉が指差す先には12本のビンが。
珊瑚 「もう。朝っぱらから。犬夜叉は飲まなかったの?」
犬夜叉「酒はあんまり好きじゃねぇ。」
珊瑚 「あたしも。」

弥勒 「おい珊瑚。」
ビクッ
珊瑚 「な、なに?法師様・・・」
弥勒 「おまえ、なぜ私を避けている。」
珊瑚 「ほ、法師様・・・やだ・・止め・・・!?」
弥勒は珊瑚を無理矢理壁に押し付けた。
完全に酔っているらしい。
ドンッ
珊瑚 「かはっ・・・や・・・止めて・・・法師様・・・」
七宝 「み、弥勒・・・」
犬夜叉「止めろ!弥勒!」
弥勒 「うるさい!珊瑚、なぜ私を避ける。そんなに私が嫌いか!」
弥勒の力はどんどん強くなっている。
珊瑚 「ち、違う、違うってば!や・・・離して・・・・」
そして弥勒は珊瑚に、無理矢理口付けしようとする。
珊瑚 「ぃやぁ!!!!」
犬夜叉「やめろ弥勒!」
犬夜叉が弥勒を突き飛ばす。
ドンッ
弥勒 「くっ・・・邪魔をするな・・・」
犬夜叉「こいつ、怯えてるぞ・・・おまえが珊瑚を泣かしてどうするんだよ!」
弥勒 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
珊瑚は犬夜叉に抱きかかえられるようにして泣いている。
犬夜叉「珊瑚、大丈夫か?」
珊瑚 「・・う、うん・・・・・・・ごめん、ちょっと・・・外行くね・・・」
そして珊瑚は外に走っていった。
森を目指しているらしい。
犬夜叉は部屋の中を見渡す。
部屋の隅には酔ったかごめが丸くなって寝ている。
壁には突き飛ばされた弥勒が座り込んでいる。
戸の近くでは七宝が怯えている。
犬夜叉「いいな、七宝。俺は珊瑚を追う。おまえはここにいろ。」
七宝 「お、おう・・・」
七宝の声は裏返っていた。

犬夜叉は珊瑚の匂いを頼りに、森の中を走った。
少し拓けた辺りで、珊瑚が座っているのを見つけた。
犬夜叉「珊瑚・・・・・・・・」
珊瑚 「・・・・・犬夜叉・・・・」
しばらく沈黙が続く。
ふいに犬夜叉が珊瑚の傍に歩き出す。
犬夜叉「珊瑚、おまえ、なんで弥勒を避けてた?」
珊瑚 「?!」
犬夜叉「弥勒の野郎、自分が何かしたのかって、悩んでたぜ。」
珊瑚 「・・・・・・・・・・・・・・法師様が、悪いんじゃない・・・・」
犬夜叉「・・・・・・・・・・」
珊瑚 「あたし、前に、許婚がいたって言ったよね。実はその人、二人目なんだ。」
珊瑚の話は続く。
珊瑚 「一人目の人はね、最初は、とってもいい人だったんだ。
    あたしよりも強いし、すっごくやさしかった。
    あたしは、自分より強い人とじゃなきゃ結婚しないって言い張ってたから、
    その人、ちょうど良かったんだ。
    けどね、ある晩、二人で酒飲んだんだ。
    でもあたしはあんまり酒は好きなほうじゃないから、
    雷だけが飲んでた。あ、「らい」っていうのはその人の名前。
    そのとき雷は、さっきの法師様ぐらい飲んでた。
    大分酔ってたんだけど、酒は止まらなかった。
    それでね・・・・・・・・・・・」
珊瑚の目に涙が光った。
犬夜叉「珊瑚・・・・・続きを・・きかせてくれ・・・」
珊瑚 「うん・・・雷は、いきなりあたしにのしかかってきて、口付けしようとした。
    で、あたしがいやがったら、いつものやさしい雷とはうってかわって、強い口調になって、
    『おまえはこの村の頭の娘。おまえが俺と一緒になれば、俺は次のお頭だ。
    それにおまえ、金を持っているだろう。さぁ、明日にでも祝言をするぞ!
    そして俺は明日から、準お頭だ!』って言ったの・・・・
    そのときあたし、すっごく怖くなって逃げ出した。
    始めて、騙されてたんだってわかった。
    そしたら雷、追いかけてきて、あたしに向かって刀を投げたんだ。
    その刀、あたしの肩をかすって・・・いまでもまだ傷が残ってるんだ。
    あたし、何とか逃げ切って、父上にそのことを言ったんだ。
    そしたら、村全体で雷を追い出してくれて、あたしはまた一人になった。」
犬夜叉「その雷とかいうやつと、弥勒とどう関係があるんだ?」
珊瑚 「あ、あの・・・昨日、あたし、川原でなんか、寝ちゃったんだ。
    そのときに、雷の夢見ちゃってね・・・その直後に、法師様の顔見たら、
    法師様が、雷に見えて・・・なんかそれから、法師様のやることが全部、
    雷と一緒だったから、またおんなじことになるんじゃないかって思うと怖くて・・・」
犬夜叉「・・・・・・・・・・・・・・・・そうか・・・・とりあえず、戻るぞ。皆が心配してる。」
珊瑚 「でも、法師様が・・・」
犬夜叉「俺が言ってやるよ!」
珊瑚 「ごめん・・・・・」
犬夜叉「ホラ、さっさと行くぞ!」
珊瑚 「はい・・・・」
犬夜叉(「はい」って、こいつ、だいぶやべぇな。俺に敬語使うなんて・・・早いこと片付けたほうがよさそうだ!)

犬夜叉と珊瑚は、小屋に戻った。
かごめ「あ、どうしたの?珊瑚ちゃん。」
かごめは復活したらしい。
弥勒はさっきの体勢のままだった。
かごめ「弥勒様、さっきからずっとこんな調子で・・・あたしが寝てる間に、何があったの?」
犬夜叉「話す。弥勒、おまえも聞け。」
そして犬夜叉は、珊瑚から聞いたことを話し出した。

かごめ「ひどいわ!その雷って人!!許せない!珊瑚ちゃんに傷まで付けて!」
七宝 「珊瑚がかわいそうじゃ!」
弥勒 「・・・・・・・・珊瑚・・・・・そう・・・だったのですか・・・すいません・・・私は・・・」
珊瑚 「あたしこそゴメン、まともに法師様の顔見れなくて。」
犬夜叉「ったく、世話かけやがって。」
珊瑚 「ごめん、犬夜叉、アリガトね。」
犬夜叉「けっ・・・・・」

一行はまた旅立った。
もう雷のことは考えないようにすると決めた珊瑚。
元通りに珊瑚が話しかけてくれることに安心した弥勒。
これからも旅は続くであろう。

★おまけ★
かごめ「ねぇ、珊瑚ちゃんv二人目の許婚は、どんな人だったの?いい人だったんでしょ?」
珊瑚 「え?まぁ・・・」
珊瑚は横目で弥勒を見た。
弥勒 「私も気になりますな。」
珊瑚 「えっと・・・名前は龍太っていって、やさしかった。やっぱりあたしより強くて、なんか、法師様みたいだった。」
かごめ「え?弥勒様に似てたの?じゃ、珊瑚ちゃんが弥勒様を好きなのって、その人に似ているから?」
弥勒 「そうなのですか。」
珊瑚 「ち、違うよ!法師様にも、龍太とは全然違うとこあるし・・・例えば、女癖が悪いこととか・・・」
かごめ「フォローになってないわよ、珊瑚ちゃん。他には?」
珊瑚 「え、えーっと、ウソつかないし、いやらしいことしなかった・・・」
七宝 「完っ璧に弥勒の負けじゃな。」
珊瑚 「あ、で、でも、あの・・・あたしは・・・法師様のほうが・・・好き……」
弥勒 「?!いまなんと?」
珊瑚 「な、なんにもないよ!それにもう、龍太は死んじゃったしっ今はきっと、空の上で見てるよ!」
弥勒 「珊瑚、さっきのもう一回言ってください!」
珊瑚 「ヤダヤダ!ってまた触る!こんのエロ法師!やっぱり龍太のほうが・・・」
弥勒 「珊瑚ぉ・・・」
珊瑚 「嘘。」
弥勒 「おまえだって、ウソつくじゃありませんか。」
珊瑚 「法師様よりましだよ。」

珊瑚 (龍太、ゴメン。あたし、龍太より好きな人、見つけちゃった。龍太、これからもあたしたち、
    精一杯幸せに生きていくから、ずっと見ててね。)
あとがき
おぉ!珊瑚ちゃんには許婚が!
しかも二人も!
いいねー。
でも一人目の人、ひどいですね!
雷はまだ死んでませんので、いつか、また登場させたいと思います

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